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2026.07.28

母が墓まで持っていった秘密は、愛だった。シリーズ~お墓は、命のバトン~(20left)

 

「貧しさと夫の不実に耐えし日を生涯語らず母逝きにけり」

(新聞・歌壇への投稿より)

 

たった三十一文字に、人の一生が収まることがあります。

 

この歌を読んだ瞬間、胸が締めつけられました。

 

母は、生涯、語らなかった。

 

貧しさも。

 

夫の不実も。

 

人生を揺るがすほどの苦しみを抱えながら、その痛みを誰かへ向けることなく、一生を閉じた。

 

この短歌が語っているのは、不幸ではありません。

 

ひとりの母が貫いた、生き方です。

 

人は、苦しみを語れば、少しだけ楽になります。

 

誰かに聞いてもらえば、心は軽くなる。

 

それでも、この母は語りませんでした。

 

なぜでしょう。

 

その理由を、この短歌は説明していません。

 

けれど私は、そこにひとつの願いを見るのです。

 

この痛みだけは、子どもへ渡したくない。

 

その願いがあったからこそ、母は沈黙を選んだのではないでしょうか。

 

ここで、私は「お墓」という存在を思います。

 

多くの人は、お墓を死者のための場所だと考えています。

 

けれど、私は少し違う見方をしています。

 

お墓は、ただの石ではありません。

 

記憶でもありません。

 

命が、「どう生きるか」を受け継ぐための装置です。

 

墓前に立っても、声は聞こえません。

 

人生の説明もありません。

 

それなのに、不思議なほど伝わってくるものがあります。

 

どんな人生を歩み、何を耐え、何を守り、そして何を、あえて残さなかったのか。

 

その静かな覚悟だけは、時を超えて届くのです。

 

この歌の母がお墓まで持っていったのは、恨みではありません。

 

恨みを、恨みのまま次の世代へ渡さないという覚悟です。

 

それこそが、親から子へ受け継がれる、本当の遺産なのかもしれません。

 

私たちが守っているのは、お墓そのものではありません。

 

そこに刻まれた名前でもありません。

 

人生をかけて選び抜かれた、生き方です。

 

愛とは、何でも語ることではありません。

 

ときには、語らないことでしか守れない命があります。

 

だから、語らないことは、ときに、もっとも深い愛のかたちなのです。

 

新聞の片隅に載った一首の短歌は、一人の母の人生を詠んだ作品でありながら、私たち一人ひとりへ問いを投げかけています。

 

私たちは、何を受け継ぎ、何を手放し、そして何を、次の世代へ渡していくのだろうか。

 

命は、誰かの身体だけで受け継がれるものではありません。

 

命は、生き方の中で受け継がれていく。

 

だから、お墓とは、過去を振り返る場所ではなく、未来へ命を手渡す場所なのです。

 

蝉時雨の向こうから、遠い誰かの人生が、静かに語りかけてくる。

 

そんな夏でありますように。

 

 


 

お墓は舞台。

 

主役は、受け継がれる生き方。

 

命のバトンを未来へつなぐ伴走者

射場石利石材株式会社

 六代目当主 射場一之

 

 

 

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