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2026.09.07

母を奪った海を、憎んだ。シリーズ「お墓は、命のバトン」

 

※この物語は、新聞歌壇に掲載された短歌を題材に、筆者の視点で再構成したものです。実体験ではありません。

 


 

母を亡くした人が、海を憎むことがあります。

 

「過ぐる年母を亡くしたそれなのに海よお前も失うがいい」

 

昨年、母を亡くした人が詠んだ一首です。

 

海に、罪はありません。

 

それでも、「お前も失え」と思った。

 

なぜでしょう。

 


 

朝、目が覚める。

 

母がいない。

 

昨日まであった声がない。

 

台所に立っても、返事がない。

 

電話を見ても、もう着信はない。

 

それが今日だけではない。

 

明日も。明後日も。

 

何百回と繰り返される。

 

そんなある朝、海を見る。

 

昨日と同じ、青。

 

昨日と同じ、波。

 

昨日と同じ、音。

 

何ひとつ変わっていない。

 

でも、自分の世界は、根こそぎ変わってしまった。

 

そのとき、人は思うのです。

 

なぜ、お前は何も失っていないんだ。

 

なぜ、世界は何事もなかったように続いているんだ。

 

そして、海が憎くなる。

 

太陽が憎くなる。

 

街が憎くなる。

 

生きている自分まで、憎くなることがある。

 

 

 

悲しみは、きれいな感情だけではありません。

 

怒りになる。

 

嫉妬になる。

 

恨みになる。

 

「なぜ、あの人が死んで、自分は生きているんだ」

 

そんな、人には言えない感情にもなる。

 

でも、それは「おかしな感情」ではないのかもしれません。

 

あまりにも大切なものを失ったとき、心の中に、行き場を失った感情が生まれる。

 

問題は、その感情そのものではありません。

 

置く場所がないことです。

 


 

もし、その怒りを置く場所がなかったら。

 

海を見るたび、母を思い出す。

 

母を思い出すたび、海が憎くなる。

 

やがて、海を見られなくなる。

 

波の音を聞けなくなる。

 

母を失っただけではない。

 

母との記憶が結びついた、世界の一部まで失ってしまう。

 

それは、あまりにも悲しい。

 

だからこそ、人には「感情を置く場所」が必要なのだと思うのです。

 


 

私は、お墓には、そんな役割もあるのではないかと思っています。

 

お墓は、死者のためだけの場所ではない。

 

生きている人が、自分の中に抱えきれないものを置きにいく場所でもある。

 

「なんで、いなくなったの」

 

「なんで、私を置いていったの」

 

「どうして、海まで憎くなるんだ」

 

言っていい。

 

泣いていい。

 

怒っていい。

 

石は、逃げません。

 

言い返しもしません。

 

ただ、そこにある。

 

黙って、受け止めてくれる。

 


 

だから、お墓は「死」を置く場所ではない。

 

生きていくために、感情を置く場所なのです。

 

怒りを置く。

 

悲しみを置く。

 

後悔を置く。

 

言えなかった言葉を置く。

 

そして、少しだけ身軽になって、また日常へ戻っていく。

 

それを何度も繰り返す。

 

そうして人は、少しずつ、大切な人を失った世界を生きられるようになるのかもしれません。

 


 

そして、不思議なことが起こります。

 

何年か経って、ふと海を見る。

 

以前と同じ青い海。

 

以前と同じ波。

 

でも、もう憎くない。

 

忘れたわけではありません。

 

悲しみが消えたわけでもありません。

 

ただ、悲しみを抱えたままでも、海を見られるようになった。

 

それは、心の中に、置き場所ができたからかもしれない。

 


 

お墓は、命を終わらせる場所ではない。

 

命を、次へつなぐ場所です。

 

亡くなった人の生き方。

 

受け取った愛。

 

教えてもらったこと。

 

一緒に過ごした時間。

 

そのひとつひとつが、残された人の中に残っていく。

 

そして、その人の生き方を通して、次の誰かへ渡っていく。

 

命は、誰かの身体ではなく、生き方の中で受け継がれる。

 

だから、「お墓は、命のバトン」なのです。

 


 

もし今、あなたの中にも、行き場のない感情があるのなら。

 

無理に、きれいな言葉にしなくていい。

 

前向きにならなくてもいい。

 

忘れなくてもいい。

 

ただ、置いていい場所がある。

 

そう思えるだけで、人は少し、明日へ進めるのかもしれません。

 

そして、自分を支えてくれている誰かがいるのなら、その人にも、一言だけ伝えてみてください。

 

「いつも、ありがとう」

 

その言葉もまた、受け取った命を、次へ渡していく小さなバトンなのだと思います。

 


 

お墓。

 

それは、今日を笑顔にするもの。

 

それは、明日を元気にしてくれるもの。

 

おかえりなさい。

 

初秋の海に、まだ怒りを抱えたままの人がいたら。

 

その怒りごと、そっと受け止めてくれる場所がありますように。

 

そしていつか、もう一度、その人が海を見られますように。

 

 

石の個性と、家族の物語をつなぐ。

 

命のバトンを未来へつなぐ伴走者

 

射場石利石材株式会社

 

 六代目当主 射場一之

 

 

 

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【資 格】
◇ 大阪府知事許可(般-4) 第87663号
◇ 労働大臣認定 1級技能士石加 第84号
◇ 経済産業省公認 石匠位認定 第89001号
◇ お墓ディレクター1級 05-100101-04
◇ 建築石材アドバイザー 222034
◇ 相続診断士 20333425
◇ 終活ガイド 00005872

 

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